不動産投資におけるリスクの1つといわれている「デッドクロス」。見聞きすることはあっても、実際のところどのようなものかわからない方も多いのではないでしょうか。
デッドクロスの仕組みを知っておくことは、実際に起きた際に対応するためにも重要です。
そこで、今回は不動産投資におけるデッドクロスの発生する仕組みから対応策・回避法などを詳しくご紹介します。
黒字経営でも倒産する?「デッドクロス」の仕組みとカラクリ
不動産投資では、帳簿上は黒字経営であっても、手持ちの現金が不足することがあります。
悪化すると黒字倒産の可能性もあり、注意が必要です。そのためにもデッドクロスについてしっかり知っておきましょう。
デッドクロスとは?

デッドクロスとは、「長期の移動平均線を、短期の移動線が上から下に突き抜けたとき(交差したとき)」のことで、チャートパターンとしてよく見られます。
移動平均線とは、一定期間の株価の終値の平均値を繋ぎ合わせた折れ線グラフで、株式投資であれば、移動平均線(SMA)や指数移動平均線(EMA)などのテクニカル指標が用いられ、デッドクロスは利益を確定させるサインといわれています。
不動産投資においてのデッドクロスは、減価償却費がローンの元金返済額を上回った状態を指しますが、株式投資とは異なり、あまり好ましい状態とはいえません。
この状態になると、帳簿では黒字であっても資金がほとんど手元からなくなってしまい、所得税がかかることによって赤字になってしまいます。
実際の現金支出はないのに経費計上できる「減価償却」
税法上では、建物や設備は購入時に一括で経費計上ができないため、利用可能な年数(耐用年数)に振り分けて年ごとに経費計上することを減価償却といいます。
実際の支出は初年度に行っているため、現金支出のない帳簿上の費用ですが、必要経費として認められるので大きな節税効果が得られます。
例えば、3,000万円の中古マンションを投資用として購入したとします。耐用年数が10年だった場合、毎年300万円×10年間の経費として計上できます。
家賃収入が毎年400万円だったとすると、毎年300万円が減価償却されるため、10年目までの不動産所得は100万円になります。
実際に入ってくるお金は400万円ですが、税金は100万円分だけにかかります。
■表1
1〜10年目 | 11年目以降 | |
家賃収入 | 400万円 | 400万円 |
減価償却分 | 300万円 | なし |
帳簿上の不動産所得(課税対象) | 100万円 | 400万円 |
減価償却には、次の2つの計算方法があります。
【定額法】
利用可能な年数(耐用年数)にわたり、毎年一定額を経費として計上する方法です。1年目から最後の年まで減価償却額は同じで、平成19年4月1日以降に取得した不動産について適用されます。表1も定額法を適用したものになります。
不動産の取得価額×定額法の償却率
【定率法】
毎年一定の割合で減価償却分を経費計上します。利用開始した時が最も金額が多く、年数が経つにつれて少なくなります。(平成28年4月1日以降に取得した不動産の場合、建物設備に定率法は適用されません)
未償却残高×定率法の償却率
(定額法で計算して償却した分の残りを償却します)
大きな節税効果が得られる減価償却ですが、法定耐用年数というタイムリミットがあります。
建物や設備によって異なりますが、耐用年数を過ぎると実際の収入に変化はなくても経費が少なくなるため、帳簿上は増収となり税金が高くなります。返済原資は税引き後の純利益だけになるため、キャッシュフローが急に悪くなってしまうのです。
法定耐用年数とは?
財務省令に定められた不動産の耐用年数のことで、建物の構造別・用途別に定められています。金融機関は融資をする際、この耐用年数も審査対象にしています。[注1]
鉄骨造
厚さ3mm以下 | 厚さ3mm超4mm以下 | 厚さ4mm超 |
19年 | 27年 | 34年 |
木造
22年 |
鉄筋コンクリート造RC
47年 |
実際に現金支出はあるのに経費計上できない「元本返金」
元本返金分は経費として計上できません。なぜかというと、元本は借りたお金を返しているだけなので、経費にすると二重計上になってしまうからです。
デッドクロスの状態になると、経費計上できない元本などの現金支出額が増えるため、手元の現金が減っていきます。
更に、減価償却費が減り、帳簿上の黒字が拡大するため所得税が増えることで、より利益が少なくなってしまいます。
こうして帳簿上は利益が出ている黒字状態であるにもかかわらず、実際は資金不足になります。
■表2
10年目まで | 11年目以降 | |
家賃収入 | 400万円 | 400万円 |
減価償却分 | 300万円 | なし |
ローン(利息分) ※経費計上:◯ (1年毎に50,000円ずつ減少と仮定) | 1年目100万円 10年目55万円 | 11年目50万円 15年目 30万円 |
その他の経費 | 30万円 | 50万円 |
ローン(元本分) ※経費計上:☓ (1年毎に50,000円ずつ増加と仮定) | 1年目 20万円 10年目 65万円 | 11年目 70万円 15年目 90万円 |
税引き前の利益 (帳簿上の利益) | 1年目 −20万円 10年目 15万円 | 11年目300万円 15年目 320万円 |
所得税 (20%と仮定) | 1年目 0万円 10年目 30,000円 | 11年目 60万円 15年目 64万円 |
税引き後の利益(手持ちに残るお金) | 1年目 250万円 10年目 247万円 | 11年目 170万円 15年目 164万円 |
※ローン返済額は毎年120万円・返済期間は20年間(わかりやすくするため、実際の金利とは異なります)
※経年劣化などでメンテナンス費用などがかかる可能性が高いため、11年目以降の経費を高く設定しています
表2のように、手持ちに残る現金が10年目は247万円だったものが、減価償却がなくなる11年目には170万円にまで減少します。
わかりやすくするために、税率やローン利息と元本の内訳バランスなどは仮定のものですが、実際のケースによっては11年目以降の利益(手持ちの現金)がマイナスになる可能性もあります。
また、物件が必ずしも満室に近い状態を維持できるとは限りません。空室が増えて家賃収入が減ってしまう可能性も考える必要があります。
不動産投資でデッドクロスに陥った際の対応策

黒字なのに倒産リスクもあると聞いては怖くなってしまうかもしれませんが、デッドクロスに陥ってキャッシュフローが悪化した状態になっても対応策はあります。
減価償却分がなくなり、現金支出が増えたことで手持ちの現金が少なくなりますがこれは一時的なことです。
ローン返済が終われば、毎月返済していた分だけ手持ちの現金がそのまま手元に残るため、キャッシュフローも良くなっていきます。それまで持ちこたえられればいいのです。
とはいえ、ローン返済まで待てないケースもあります。ローン完済以外にキャッシュフローを良くしてデッドクロスから抜け出せる方法はないのでしょうか?
現金支出を抑えてデッドクロスを乗り切る
デッドクロスの問題点は、手持ちの現金が不足することです。減価償却費の減少と借り入れ負担が増えたのが原因ですから、ローンと減価償却のコントロールを行うことで現金支出を抑えることが重要です。
ローンを借り換えて借入期間を延長するのも1つの方法です。返済総額は以前よりも多くなりますが、デッドクロスから抜け出すのに効果的です。
毎月の返済額を減らすことでローン返済の負担を軽減できます。
これから不動産投資を始める場合は、減価償却がなくならないうちに返済を終えられるようにすると、デッドクロスに陥る可能性はかなり低くなります。
耐用年数が短い中古物件では難しいですが、新築物件であれば十分に可能です。
売却・買い替えの検討もひとつの選択肢
減価償却分がなくなった物件を売却し、新たな物件に買い換える方法もあります。
その際には、利回り(不動産投資によるリターン)が高い物件を購入し、手元にたくさんお金を残すことでデッドクロスを回避することができるようになります。
減価償却できる資産の購入
減価償却できなくなった物件を売却するより、新たに減価償却費を計上できる資産を購入する方法もあります。
新規購入した物件の減価償却費を、元の物件の元本返済分に回します。
デッドクロスを回避する不動産投資・経営方法

ここまではデッドクロス状態から抜け出すのに有効な方法をご紹介してきましたが、そもそもデッドクロスに陥らないようにする方法もあります。
借入金の返済方法に「元金均等返済方式」を選択する
ローンの返済方法は「元利均等返済方式」が一般的です。毎月の返済額は一定ですが、支払利息分と元金返済分の割合が変わっていきます。
最初は利息分が多いですが、次第に経費計上ができない元金分が多くなっていくため、デッドクロスになる原因の1つにもなっています。
そこで、ローンの返済方法を「元金均等返済方式」にするのも1つの方法です。
支払利息分の返済方法はそのまま(だんだん減っていく)で、元金返済分はずっと変わりません。初年度の返済総額は高くなりますが、元金返済額が変動しないので、経理上の負担を軽くできます。
できるだけ自己資金を多く入れる
投資物件の購入時に自己資金を多く入れて頭金にすれば、もともとの借り入れ金額が少なくなります。
借入額が少なくなれば、月々の返済額を少なくしたり、借入期間を短縮したりできます。
減価償却ができる期間が短い古い中古物件を購入しない
中古物件は購入費用が抑えられますが、デッドクロスに陥る可能性を考えると注意が必要です。
新築と違って築年数がある分、耐用年数が短くなります。減価償却分を計上できる期間が短いため、デッドクロスになる時期が早くなる可能性が高いからです。
中古物件の残存耐用年数=新築時の耐用年数−(経過年数×0.8)
(経過年数は端数切り上げ・残存耐用年数は端数切り下げ)
例えば、築年数が9年5ヵ月の木造アパートの場合は、残存耐用年数が新築よりも8年短い、14年になります。
22年−(10年×0.8)=14年
納税資金の積立を行う
デッドクロスに陥ると、納税額が上昇します。それに耐えられるように、減価償却費が大きいうちに積立(貯金)しておくのもおすすめです。
不動産には修繕にも多額の費用が必要ですが、その準備にもなります。毎月計画的に貯めていきましょう。
ローンの繰り上げ返済を行う
預貯金に余裕がある場合はローンの繰り上げ返済を行えば、毎月の返済負担を軽減できます。
ローン残債がなくなった後は、ローン返済に当てていた分だけ手元に現金が残ります。税金の負担が増えても収支はプラスの状態を維持しやすくなるため、デッドクロスに陥る可能性は低くなります。
さらに、物件を増やすための元手に対する融資を受けたい場合にもおすすめです。残債がなくなった物件を担保にすれば、有利な条件で融資を受けやすくなるからです。
ただし、金融機関によっては投資用ローンの繰り上げ返済には違約金(手数料)がかかるケースがあります。事前に確認しておきましょう。
まとめ
不動産投資におけるリスクの1つであるデッドクロスに陥ると、帳簿上は黒字であるにもかかわらず、手元の現金が不足している状態が続きます。
悪化すると黒字なのに倒産というケースもあるので、対策が必要です。
手持ち物件の売却や買い替えなどでデッドクロスから抜け出すことは可能ですが、自己資金を用意して、もともとのローン借入額を減らしたり、減価償却期間が短い中古物件の購入をさけたりすれば、デッドクロスになる可能性を低くすることもできます。
いずれにしても、不動産投資を成功させるためには、しっかりした投資計画を建てることが重要です。

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