不動産賃貸経営をしている大家さんにとって、賃借人とのトラブルは出来るだけ避けたいもの。その中でも「敷金」は発生しやすいトラブルの1つです。
- 敷金が全額返金されない!返金されるものじゃないの?
- 敷金以上に原状回復費用を請求するのはおかしい!
上記のようなクレームを入れられて、トラブルに発展するケースも少なくありません。
このようなトラブルは、今後の経営にも影響する可能性があります。
そこで今回は、敷金と原状回復のルールについて学んだ上で、敷金トラブルが発生する原因とその回避方法について解説します。
敷金トラブルが心配なオーナーは、ぜひ参考にしてください。


目次
賃貸アパートやマンションの「敷金」について

賃貸借契約を結ぶ際に、敷金を設定しているケースは多いものですが、敷金を正しく理解しておかなければ、賃借人との間で敷金トラブルに発展してしまう可能性が高くなります。
まずは、「敷金の概要」と、民法改正により明文化された「敷金と原状回復のルール」について詳しく解説します。
そもそも「敷金」とは?
賃貸アパートや賃貸マンションにおける「敷金」とは、入居者が入居時に大家さんに預ける初期費用の1つです。関東では「敷金」、関西では「保証金」など、地域により呼び名が異なるため注意が必要です。
「敷金」と「保証金」の仕組みは基本的には同じですが、保証金には「敷引き」と呼ばれる賃借人に返却されないお金が慣習として含まれています。この「敷引き」は関東の「礼金」と同義です。ただし近年は、関西でも「敷金・礼金」を設定する物件が増えてきています。
敷金の役割は主に2つあります。
1つは原状回復費用としての役割です。
例えば賃借人が不注意で、部屋の床や畳などを破損させた場合は、退去の際に敷金から原状回復費用として修繕代金やクリーニング費用が差し引きかれます。
もう1つは、家賃を保証する役割です。賃借人が家賃を支払えない場合は、敷金から補填します。
民法改正により明文化された「敷金と原状回復」のルール
これまで敷金と原状回復の負担割合については、明確なルールが定められていませんでした。
そのため敷金トラブルが相次ぎ、国民生活センターや消費生活センターなどの窓口に相談が入るケースが多発していましたが、2017年6月に公布された民法改正で「敷金と原状回復」のルールが明文化されました。
敷金については、以下のようにルールが定められています。
第四款「敷金」の第六百二十二条の二
「賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
- 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
- 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
(引用:首相官邸ホームページ 官報 より
http://www.kantei.go.jp/jp/kanpo/2017/jun.1/h290602/gifs/g106020027.pdf)
つまり、「入居者が退去する際に、敷金から家賃滞納などの金銭債務を差し引いた金額の返還が義務付けられた」ということです。上記の文言に「いかなる名目によるかを問わず」との記載があるため、関西の「保証金」もこのルールの対象となります。
また、原状回復費用の負担割合について次のように定められています。
借主の負担部分 | 部屋を借りた後の借主による損傷(通常損耗以外) |
---|---|
貸主の負担部分 | 経年劣化・通常損耗・災害による破損など |
このルールによると、普通の生活で生じた傷や汚れに対する原状回復費用は貸主の負担となるため、その分の原状回復費用は敷金から差し引くことができません。
今回の民法改正は一部の規定を除き、2020年(平成32年)4月1日から施行されます。
施行日以降に結ばれた賃貸契約では上記のルールが適用されるため、注意しておきましょう。
入居者との敷金トラブルが起きてしまう原因について
敷金トラブルが発生する主な原因は、敷金の返金額です。
これまでは敷金と原状回復のルールが法律で明記されていなかったため、貸主と借主の主張が食い違うことでトラブルが発生しやすい実情がありました。
今回の民法改正により、経年劣化や通常損耗は貸主の費用負担と明記されましたが、経年劣化や通常損耗に該当するかどうかの意見が貸主と借主で相違することも敷金トラブルの原因となります。
敷金は返還されるイメージが強いものです。しかし、借主が負担する原状回復費用が敷金を上回る場合は、借主に退去時にその不足分を請求が一般的です。


入居者の物件退去時に最も多い「敷金トラブル」のよくある事例

敷金トラブルは裁判に発展するケースもあるため、注意が必要です。敷金トラブルの起こりやすい事例を把握しておくことで、敷金トラブルを回避するための参考にしてください。
ここからは実際に発生している敷金トラブルの中でも、特に多い2つの事例についてご紹介します。
事例①入居者から敷金の全額返金を請求されトラブルに
この事例は貸主と入居者が考える「通常の使用の範囲」が異なるために生じたトラブルです。
6年間入居してくれていた借主のBさんの退去時に、畳やカーペットに通常の損耗を超える傷やカビがあったため、オーナーのAさんは借主のBさんに合意を得ようと、見積もりを取得して借主のBさんに確認してもらいました。
修繕費用は敷金と同程度の金額であったため、敷金は返還できない旨を伝えた瞬間、借主のBさんは激怒。
「敷金は絶対に返してもらう」の一点張りでしたが、賃貸借契約書に「通常の使用の範囲を超える損耗がある場合は、原状回復費用を敷金から充当する」という記載をきちんとしていた旨を伝えると、ようやく敷金から差し引くことを認めてくれました。
オーナーのAさんは、賃貸借契約書に「どのような場合に原状回復費用が発生するか」をきちんと明記していたために、満額返金を免れました。
もしも賃貸借契約書にこのような記載がなければ、トラブルはさらに長引き、あきらめざるを得なかったかもしれません。
事例②敷金以上の原状回復費用を請求しトラブルに
続いては、賃貸借契約書に敷金に関する事項を明記していなかったことが原因でトラブルに発展し、大家と入居者の双方が後味の悪い結果となった事例です。
借主であるDさんのアパート退去時に部屋の状態を確認したところ、損耗が著しい状態でした。
借主のDさんは猫を多頭飼いしていたため、室内の破損や悪臭が酷く、クロスや床の貼替が必要です。さらに換気や普段の手入れも十分にされていなかったため、お風呂場やキッチンや洗面所など複数の箇所にカビ・腐食も見られました。
業者に修繕費用の見積もりを依頼したところ300万円程度になるとのこと。
この修繕費用は借主のDさんに全額負担してもらう必要があると判断したオーナーのCさんは、修繕費用の不足分を借主のDさんに追加請求しました。
ところが借主のDさんは追加の支払いを拒否。
さらに、オーナーのCさんは賃貸借契約書に「どのような場合に原状回復費用が発生するか」を明記していなかったために、「そんな話は聞いていなかった」と言われた際も、借主のDさんを納得させることができませんでした。
結果的に、トラブルがこれ以上長引くことを嫌ったオーナーのCさんは、原状回復費用を半額負担することを伝え、借主のDさんと連帯保証人に対して交渉を行いました。
幸い、連帯保証人が借主のDさんともきちんと話をしてくれ、半額であれば払うとの結果になりましたが、お互いに後味の悪い最後となってしまいました。
敷金トラブルを最大限避けるためには?

前項の事例のように、敷金トラブルを事前に避ける・解決させるためには、賃貸借契約書が非常に重要となります。
トラブルが長引き、折り合いがつかない場合は、裁判に発展してしまう可能性もあります。裁判は当事者間の交渉より早く話がまとまる反面、費用がかかり、大家さんと入居者の双方に負担が大きくなるため、出来ることなら避けたい手段です。
最後に、敷金トラブルを回避するための対策として、重要な2つのポイントについてご紹介します。
敷金に関するガイドラインを理解する
国土交通省や自治体では、貸主と借主の紛争トラブルを防ぐためのガイドラインを設けています。
「ガイドライン」とは、法律ではないものの、自主的に遵守することが推奨される一般的な指針です。
東京都の場合、「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」で原状回復の負担割合に関して下記のように定めています。
- 借主が退去する際は原状回復が必要である。借主の義務となる「原状回復」とは、借主の故意・過失や通常の使用の範囲を超える損耗を指し、その原状回復費用は借主が負担するのが原則である。
- 経年変化および通常の使用による損耗については、その原状回復費用を貸主が負担するのが原則である。
- 貸主と借主の合意により、上記の原則と異なる原状回復特約を定めることができる。ただし、通常の原状回復義務を超えた負担を借主に課す特約は、すべて認められる訳ではなく、内容によっては無効となることがある。
(引用:東京都「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」よりhttp://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-6-jyuutaku.pdf)
また、国土交通省のガイドラインでも同様の内容を定めています。
(リンク:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html)
これらのガイドラインを貸主が知らず、通常の使用の範囲の損耗の復旧費用を借主に請求しているケースもあります。
まずは貸主がガイドラインをしっかりと理解し、推奨されている内容を順守しながら敷金トラブルを回避しましょう。
敷金に関する事項を契約書に明記する
敷金に関する詳しい決まりを賃貸借契約書に明記していないことが原因で、敷金トラブルに発展するケースも少なくありません。
ガイドラインを理解した上で、賃貸借契約書には退去時に敷金からどのような場合に原状回復費用が差し引かれるのか詳しく記載しておくことが大切です。
また、ペット可の物件の場合は、必要に応じて敷金の償却などの特約を記入しておくことで、トラブルに備えることをおすすめします。
- 屋内の喫煙を禁ずる。タバコのヤニによる黄ばみや臭いがある場合は全額貸主の負担とする。
- カーペットのシミ・汚れ・カビについては手入れ不足の場合、借主が〇割負担する。
さらに、念のため公的なガイドラインの存在や、ガイドラインの沿った契約内容であることを契約時に説明することも有効です。
まとめ
不動産賃貸経営において特に多い「敷金トラブル」。
なるべくトラブルを回避するためには、ガイドラインをしっかり理解することはもちろん、「敷金に関する詳細を賃貸借契約書に明記すること」が大切です。
さらに、民法改正で明文化された「敷金と原状回復のルール」も、施行日以降は順守しなければなりません。
今回ご紹介した敷金トラブルの原因や事例・回避策を参考に、スムーズな賃貸経営を目指しましょう。



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