安定的な賃貸経営を行うためには、質の良い入居者を維持することが重要です。
しかし、賃貸物件の経営上、
入居者に立ち退いてもらわなければならない問題が発生することもあります。
入居者にとっては住む場所が無くなる大きな問題であるため、
丁寧に対応しなければトラブルに発展する可能性もあります。
万が一立ち退き交渉が必要となった時に、
スムーズに対応することができように知識を得ておくことは、
大家として大切なことです。
そこで今回は、立ち退きの基本的な知識から、
立ち退きをスムーズに行うための流れ、さらに具体的な事例について詳しく解説します。
賃貸経営を行うなら知っておくべき「立ち退き」と「強制退去」の違い
賃貸経営において知っておくべき専門用語のひとつに、
借主に物件を明け渡してもらうことを意味する「立ち退き」と「強制退去」があります。
まずは、これら2つの違いについて理解しておきましょう。
「建物の老朽化による建て替え」など安全性を確保するためのやむを得ないケースもありますが、
「貸主が別の用途で使用したい」「物件を売却したい」など基本的に貸主都合ケースで退去してもらう場合は「立ち退き」に該当します。
立ち退きの実施には正当な事由や、
正当事由とは認められない場合にその補償金として支払う立ち退き料が必要です。
家賃滞納や近隣への迷惑行為、契約の範囲外での使用など、
賃借人が賃貸借契約において契約違反をしている場合に、
物件の明け渡しを要求して強制的に退去させることを言います。
基本的には立ち退き料の支払いを必要とせず、
強制執行を実施して賃貸借契約を解約することが可能です。
しかし、立ち退きと同じように、借主は借家権が借地借家法※で保護されているため、
問題のある借主であったとしても、
強制退去させるためには一定の条件を満たす必要があります。
※借地借家法とは?
建物・土地について定められた賃貸借契約に関する規定。
賃貸人に比べ立場も弱く、経済的にも不利な借家人や借地人を保護するためにつくられた法律で、平成3年10月4日成立、平成4年8月1日施行。
正当事由は絶対に必要?
正当事由が無くても、入居者に立ち退きを要求することは可能です。
しかし入居者の納得がいかず裁判に発展した場合は、
正当事由が無ければ請求が認められず、
入居者が納得できる額の立退料を支払うケースも少なくありません。
立ち退きの正当事由にもいろいろなケースがありますが、
該当物件で事業を始めたい等、基本的に貸主都合であればあるほど、
立退料を多めに支払って「補完」しなければならなくなります。
スムーズに立ち退いてもらうためにも、
入居者に立ち退きの交渉を行う際は基本的に必要です。
入居者に立ち退きをしてもらう際の主な流れ
立ち退きの交渉から実際に退去してもらうまでの流れは、以下3つのステップが基本です。
- 入居者に立ち退きの経緯を説明
- 立ち退き料の交渉
- 退去手続きを経て退去
ここからは、立ち退きを強制できる家賃未納等の借主事情ではなく、
難易度が高く立ち退き料が発生する貸主事情のケースを想定して、
それぞれの流れを詳しく解説します。
入居者に立ち退きの経緯について説明する
まずは立ち退きの経緯や理由について説明し、入居者から合意を得る必要があります。
入居者は借地借家法という法律で守られており、
賃貸契約を解除することは入居者からの合意を得られなければ実行することが出来ません。
また、借地借家法第26条により、
立ち退きの要求は原則として賃貸契約書の契約期間に定める契約更新の「1年前~半年前まで」に通知しなければならないとされている点にも注意が必要です。
実際に入居者に立ち退きを要求する際は、
いきなり要件を伝えるのではなく、以下のような順序で話を進めましょう。

立ち退きの合意をスムーズに得るため、入居者を刺激しないよう、
誠実かつ丁寧に話を進めることがポイントです。
立ち退き料の交渉を行う

立ち退きの合意を得ることができたら、立ち退き料の交渉のステップに入ります。
立ち退き料は、
引越し費用・引越しの影響により発生する費用・数か月分の家賃を補償内容として妥当な金額を提示することが基本です。
しかし「なるべく早く退去してもらいたい」などの事情があれば、
「3ヶ月以内の退去の場合は立ち退き料を上乗せする」
「〇ヶ月以上対応していただけない場合は立ち退き料を減額する」
などの条件を追加して、決断を促すことも一つの手段です。
入居者に立ち退き料の交渉を行い、料金に対して合意を得られた際は、
立ち退き料が記載された「合意書」を締結し、明確な形として残しておきましょう。
入居者から了承を得て退去手続きを行う

立ち退き料の交渉が完了し、入居者から立ち退きの了承を得た後、
いよいよ退去手続きを行います。
立ち退き料を支払う時期は、
立ち退きが完了したことを確認したあとに支払うケースが多いです。
ただし入居者により、引越し費用がないという方も居るでしょう。
このようなケースは、引越し前・引越し後と2回に分けて支払うケースもあります。
事前に、引越し先を見つける手伝いや、
引越しの手伝いなども行う約束をしていた場合は、円満に立ち退きが完了するよう率先してサポートを行いつつ、
完全に退去するまでの進捗を確認しておきましょう。
事例で分かる!よくある立ち退きの要求理由と交渉内容
オーナー都合による立ち退き要求の拒絶は、意外と珍しい話ではありません。
しかし、どうしても立ち退いてもらいたい場合は最後まで感情的にならず、
丁寧に交渉を行う必要があります。
万が一、立ち退きの要求を拒絶された場合でも慌てずに対応できるよう、
ここからはよくあるオーナー都合による立ち退きの要求理由と交渉内容について詳しくご紹介します。
ケース①建物の老朽化により建て替えたい
築40年を越えたアパートを経営しているAさんは、
老朽化により古びた建物を建て替えるために、
入居者に立ち退きの要求を試みていました。
幸いにも入居者のほとんどが問題なく退去してくれると返答してくれましたが、
入居者であるBさんのみ「引越す気はない」とのことで、
なかなか立ち退きを聞き入れてもらえませんでした。
そこでAさんは、専門業者に耐震診断をはじめとした証明書を作成してもらい、
老朽化アパートの安全確保等の理由を添えて再度説得を試みたところ、Bさんも承諾。
立ち退きにあたっての補償とサポートを提供する旨も告げて、
円満に立ち退き交渉を進める事に成功しました。
建物の老朽化による建て替え等は、
「建物の倒壊などから入居者の安全確保のため」というやむを得ない事由に該当するため、立ち退きの正当事由として正当化しやすいことが特徴です。
しかしAさんの事例のように、
正当事由であっても立ち退きを断わられることも珍しくありません。
きちんとした理由があることを丁寧に説明することで、
納得してもらえるケースも多いため、
予め証明書などを用意しておくと良いでしょう。
ケース②身内を入居させるために現入居者を退去させたい
介護が必要になった親族を心配した物件オーナー・Cさんは、
親族を自己所有の物件に住まわせ、面倒を見たいと考えます。
しかし物件には既に入居者がいて、
親族の部屋を確保するためには入居者の立ち退きが必要でした。
更新期限の6ヶ月前に私信を書き、
入居者に相応の補償を用意するため退居してほしい旨を伝えたものの話し合いは難航。
弁護士に相談したところ、相場よりも高い額の立ち退き料を支払う条件で、
再交渉することとなりました。
Cさんの事例のように、正当事由がない以上は裁判に発展しても勝算はほぼ無いに等しく、話し合いによる解決を目指すしかありませんでした。
高額な立退料が発生するリスクをとってでも交渉を続けるか、諦めるかの二者択一です。
安易な判断は避け、なるべく有利な方法で交渉を行いましょう。
スムーズに立ち退きしてもらうには誠意を見せることが大切

立ち退きは人の生活に関わるデリケートな問題であるため、
実施に踏み切る際には誠意をもって物事を進めることが大切です。
正当事由の不足分を金銭で補ったとしても、事務的にあっさりと片付けてしまっては、
快く思う人はいないでしょう。
また、そのような姿勢が悪評として広まってしまうと、
今後の不動産経営に影響を与えかねません。
立ち退きを要求する入居者は、これまで物件に入居し、
家賃を支払ってくれていた借主でもあります。
やむを得ない事由であったとしても、
きちんと誠意をもって立ち退きに臨むことで、お互い気持ちよく解決できる可能性が高まるでしょう。
まとめ
入居者に立ち退きを要求することは、物件のオーナーとして賃貸経営を行っている限り、いつ起こるかわかりません。
必ず起こるわけではない問題だからこそ、積極的に知識を得ようとする大家さんも少ないです。
しかし長期的に安定した賃貸経営を行うためには、立ち退きに関するさまざまな知識を持っておくことが重要です。
ここまでご紹介した立ち退きの流れや留意点を事前に把握しておくことで、経営中の急な立ち退き問題も慌てずに対応することができる上、よりスムーズに立ち退きを進められるでしょう。


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